Home / 青春 / 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜 / 第1部 一章【財前姉妹】その4 第十一話 イチゴサンド

Share

第1部 一章【財前姉妹】その4 第十一話 イチゴサンド

Author: 彼方
last update Last Updated: 2025-04-04 10:00:00

46.

第十一話 イチゴサンド

 金色に近い茶髪をした少女は車窓から見えるのどかな風景を立ちながら見ていた。

(落ち着くわ…… どこまでも緑。時々花が咲いていて。少し前まで東京でコンクリートばかり見て暮らしてきたのが嘘のよう。やっぱり人間は自然の中が落ち着くようになっているのかしら。人間である前に動物ってことね)

 そんなことを思いながら大洗鹿島線(おおあらいかしません)で鹿島神宮(かしまじんぐう)へと向かっていたのは来週プロテストを受ける井川ミサトだ。

 鹿島神宮は勝負の神様。麻雀プロテストの合格祈願にはもってこいなのである。

 車内はガラガラに空いていて座席は選び放題だったが例によってこの少女は座らない。常に肉体を鍛えている。鍛えてはいるのだが、食べ物は好きな物を食べたい。そこは譲りたくないので、せめて運動量は多くしていく。ミサトはそういう考えだった。

 美味しいものを食べることすら我慢して鍛えるのは違うような気がするのである。そこは食べようよと。なので当然、今回も鹿島神宮で祈願を済ませた後はアリスラーメンに行くつもりだ。けど、今回の目的はラーメンではなくフルーツサンドだ。

 正直言って迷った。ラーメンを食べるべきかどうか。両方ともというのは大人の考えで、まだ学生のミサトにはラーメンもフルーツサンドもというのは贅沢過ぎた。

 前回は店内でみんな一緒にラーメンという計画だったので選択肢に無かったが今回は一人旅だ。無人販売所のフルーツサンド…… 食べてみたい!

 しかし、ラーメン美味しかったし…… でも、イチゴサンド食べたいし……。決定出来ないまま長考中のミサトだったが到着したら選択の余地がなかった。なぜなら現在時刻14時55分。昼営業のラストオーダーは14時45分までなのである。さすがに夜営業の17時までは待っていられない。無人販売所なら24時間あいている。

(よし、運命がイチゴサンドを

Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Related chapters

  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その4 第十二話 私のなりたいプロ

    47.第十二話 私のなりたいプロ 白山詩織(はくざんしおり)は帰りたかった。(はあーー。なんで私がこんな仕事をしなきゃなんないのかしら。試験官なんて私の時はもっと重鎮が出てきてやってたじゃない。なんで私に招集がかかるのよ! でも、これをやれば他の行事を今年はパスしてもいいって言われちゃあやるしかないか…… パーティに出て女王位おめでとうとか壇上で言われたりすんのは面倒くさいし、今年のパーティは休ませてもらうわ) そう思ってシオリは今回のプロテストで試験官を務めた。名簿に目を通してみると財前という名前が2人いることに気付く。(姉妹かしら、珍しいわね) 試験会場の椅子や長テーブルの設置を手伝ったりして朝早くから忙しいシオリ。(ったく、何で私が) そう思いつつも女王シオリは汗をかきながら自分の仕事をしっかりやった。────10時00分 試験受付が始まった。今度は入り口で記入をお願いする係をシオリが担当。もう疲れたから座ってられる仕事をしようと思ったのだ。そこに一番手で受付に来たのは派手な髪色をした、それでいてライオンのような堂々たる佇まいを見せる立ち姿の美しい美少女だった。(おお…… 美しさの中に知性と力を感じさせる。強者の雰囲気があるな。この子は合格しそうだ)とシオリは一目で思った。「はい、こちらにお名前を記入して右手奥から階段を上がり2階の手前左の部屋へ行って下さい」「はい」井川美沙都 それから数分後また別の美少女がきた、しかも今度は2人だ。「はい、こちらにお名前を記入して右手奥から階段を上がり2階の手前左の部屋へ行って下さい」「はい」「はい」財前真実財前香織(

    Last Updated : 2025-04-05
  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その5 第一話 3つの上達方法

    48.ここまでのあらすじ カオリ、マナミ、ミサトの3名はプロ麻雀師団のテストを受けて見事合格。今期から入会し、プロ雀士として活動することになる。 一方ユウは競技プロという道ではなく麻雀教室講師という道を目指した。【登場人物紹介】財前香織ざいぜんかおり通称カオリ主人公。読書家で書くのも好き。クールな雰囲気とは裏腹に内面は熱く燃える。柔軟な思考を持ち不思議なことにも動じない器の大きな少女。神の力を宿す運命の子。財前真実ざいぜんまなみ通称マナミ主人公の義理の姉。麻雀部部長。攻撃主体の麻雀をする感覚派。ラーメンが大好き。佐藤優さとうゆう通称ユウ兄の影響で麻雀にハマったお兄ちゃんっ子。竹田杏奈たけだあんな通称アンテーブルゲーム研究部に所属している香織の学校の後輩。佐藤卓さとうすぐる通称スグル佐藤優の兄。『ひよこ』という場末雀荘のメンバーをしていた。自分の部屋は麻雀部に乗っ取られているが全く気にしていない。井川美沙都いがわみさと通称ミサト麻雀部いちのスタミナを誇る守備派雀士。怠けることを嫌い、ストイックに生きる。中條八千代なかじょうやちよ通称ヤチヨテーブルゲーム研究部所属の穏やかな少女。理解力が高く定石を打つならコレという判断を間違えない。三尾谷寛子みおたにひろこ通称ヒロコテーブルゲーム研究部所属の戦略家。ゲームの本質を見抜く力に長けていて作戦勝ちを狙う軍師。倉住祥子くらずみしょうこ通称ショウコ竹田アンナの同級生。ややポッチャリ気味の美少女。見た目通り、よく食べる。学力は高く常に学年上位だがそんなことには全く興味がない。天才肌。浅野間聡子あさのまさとこ通称サトコショウコの親友。背が高くてガッチリした体格。中学時代はバレー部で活躍したが高校からは料理研究部に興味を持ち運動部はやめることに。運動神経よりも戦略や読みで活躍する頭脳明晰な元セッター。womanカオリにだけ届く伍萬の付喪神の声。いつも出現するわけではなく、伍に触れた時だけ現れては助言をしてカオリを勝利へ導こうとする。その5第一話 3つの上達方法 佐藤ユウはメキメキと腕を上げていた。最近、倉住ショウコと浅野間サトコがユウのような戦術家になりたいと言い毎日のように教わりに来るのでコイツら受験生なのに学校の勉強は大丈夫

    Last Updated : 2025-04-06
  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その5 第二話 財前プロの初出勤

    49.第二話 財前プロの初出勤 土曜日。今日はカオリが午前出勤の日である。そして、プロ雀士になってから初の出勤日でもあった。「「カオリちゃん! プロ試験合格おめでとう!!」」 出勤したらみんなから祝福された。時給も980円から1200円になるんだという。「ありがとうございます。でも、なんだかまだ実感がないです。リーグ戦も始まってないし。私がプロ雀士かあ…… ウソみたい」「カオリちゃんはプロだよ。なんかそう、オーラを感じるもの」「あは、ありがとうございます」(それはwomanのことかな? 勘のいい人にはわかるのかしら)「じゃあさっそくだけどカオリさん本走頼めるかな」「もちろんです!」「ああ、今日からは財前プロか」「やめてくださいよ店長。今まで通りカオリでいいですよ。それに財前プロだとマナミもだし」「わかったよ。それじゃ1卓で立卓準備してください」 そう言うと店長はゲームシートに時間と名前を記入し始めた。 場決めの牌を引いてゲーム開始!『ゲーム、スタート』 自動卓がゲーム開始の音声を上げる。「「よろしくお願いします!」」 カオリは北家でスタート。「お飲み物はよろしいですかー。みなさんお飲み物のご注文はよろしいですかー」そう聞きながら立番の店長が卓を回る。「あ、ごめん、ケータイの充電お願い」大体この時飲み物以外の注文が入ったりする。今来たばかりの人に食べ物の注文をされる時もある。外で食べてから来ればいいのに。その方が安く済むのにな。といつも思う。タバコの注文をされる時もあるが(それは買ってから来店してよね)と思う。そもそも私は買いに出れないし。年

    Last Updated : 2025-04-07
  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その5 第三話 知っているから分からない

    50.第三話 知っているから分からない マナミは力を付けてきたので最近はずっとラシャの付喪神の出番はなかった。もう、現段階のステージでは見てなくても大丈夫だなと。 すっかり出番を失った付喪神だが、それこそが望んだことなので神様も満足して休んでいた。もう、マナミは現状放っておいても強い。とは言えまだ経験不足。分からないことはたくさんある。 マナミは分かる範囲で間違えないというだけだ。成長したらそれと共にまた分からない事は増えていく。 麻雀は知れば知るほど正解が難解に思えてくる。それは麻雀を知れば新しい解法を知ることにもなるから。 今まで足し算引き算しか知らなかった人にかけ算を教えるようなものだ。新しい解き方に気付くことこそが成長で、それを使いこなす為に更なる鍛錬が必要となる。  つまり、誰よりも知っているから分からない。そういう現象が麻雀にはある。 早くて、正解であっても、浅いのであれば最強とは程遠いということ。最高等級な正解を探求し、相手の力量も把握し、その中から今使うべき選択、ターゲットに対して最も効果的と思われる最適打を導き出せて初めて一流雀士への道のスタート地点に立てるというものだ。 とは言え、マナミはずいぶんと強くなった。なのにマナミはスコアをもっと伸ばしたいと常に思っていた。それは自分より上のスコアを反対番のカオリが出すから。(負けられない! 姉として、ライバルとして、そして…… プロとして! ……カオリにだけは負けたくないっ!!) そんな思いを抱いていた。 そうとは知らずカオリはwomanに習いながら勝ち続けていたのだが。◆◇◆◇ 一方、ミサトは麻雀部にプロ麻雀師団入りしたことを報告に来ていた。「というわけでー、私は麻雀部の誓いでもある『生涯雀士』の

    Last Updated : 2025-04-08
  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その5 第四話 人間読み

    51.第四話 人間読み その半荘は萬屋マサルのダントツだった。誰にも捲られることはないだろうという点差をつけてオーラスを迎えたマサル。そこに3着目につけている久本カズオがどう見ても2着すら捲らない安仕掛けで逃げを決めに来てた。 打点はおそらく2000点。あっても3900。満貫を狙えば2着を捲れるが、ラス目が千点差以内のすぐ近くにいるのでリーチ棒を出さない方針として考えた結果『ラス落ち回避のみを優先』とさせて安仕掛けで3着キープ狙いとなったのだ。 その時のカズオは(安いのは分かるように二色晒したからこれなら萬屋が放銃してくるな)とほくそ笑んでいた。 それを見たマサルはむしろカズオを徹底マークした。絶対にあがらせない。そう誓った。そして、長引いた末にラス目が追いついた。「リーチ!」 そこに対してマサルはカズオに現物の打⑦。「ロン!」 見事なメンタンピンだった。これをツモって裏乗せれば2着という仕上げ。「3900」「はい」「……2卓ラストです。優勝C席会社失礼しました。着順CDAです!」「2卓の皆様よりゲーム代いただきましたありがとうございます!」「「ありがとうございます!」」「それではゲームお待ちの2名様お待たせ致しました」 待ち席で待っていた人を卓にご案内して立番に戻るとカズオがマサルに質問してきた。「さっきのオーラス。僕の当たり牌持ってなかったんですか? 差し込みしてくると踏んだんですけど」「持ってたさ。いつでも差せた。4種類以上持ってたからどれかは当たりだっただろうな」「え? じゃ、じゃあなんで打ってくんないんですか」「態度が悪いからだ」「ええ?」「久本さんの考えていることはお見通しなんだよ。安い

    Last Updated : 2025-04-09
  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その5 第伍話 オリジナル戦術書

    52.第伍話 オリジナル戦術書 その日、バイトから帰ってきたカオリは家に誰もいないことを確認するとキーホルダーをツンとつついた。「ねえwoman」《なんですか?》「マナミが伸び悩んでる感じがするんだけど、何かアドバイスできないかな」《ラシャの付喪神様は無言みたいですからね。ちょっと間違ってるとお知らせしてくれるだけで基本的にはマナミさん自身に任せてますよね》「何か効果的な練習メニューとかないの?」《そうですね、私なら……》「私なら?」《自分オリジナルの戦術書を作ります》「自分で?! そんなこと出来ないよ!! 未熟も未熟。私たちはまだ素人みたいなもんなのに!」《何言ってるんですかカオリ。あなたもマナミさんも今はもう競技団体に所属している、まごうことなきプロ雀士なんですよ。忘れたんですか?》「そ、それはそうだけどぉー」《やってみればカオリには出来るはずです。カオリは文章を書くのは得意じゃないですか。マナミさんにも書き方のコツを教えながら2人で作ってみたらいいんです。やり始めればきっと楽しいですよ。日記だってカオリは楽しそうによく書いてるじゃないですか》「例えばどんなことから書いたらいいかな」《そ……(あ、消えた) カオリは再びキーホルダーをツンとつつく。「で、例えばどんなことから書いたらいい?」《そう言うのはまず自分で考えるから意味があるんですよ、カオリ。でも、強いて言うならまずは基礎からじゃないですか? 私ならスタートは基礎から。確実で、それでいて出来ていない人もたくさん居そうな。そんな自分の中で一番気をつけてる『構え』から入るかもしれませんね》(ふむ、なるほど)「ありがとう、woman。マナミと一緒にちょっと考えてみる!」《これでマナミさんが一皮剥けるといいです

    Last Updated : 2025-04-10
  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その5 第六話 泉天馬の1人旅

    53.第六話 泉天馬の1人旅 その頃、佐藤ユウはアマチュアの参加可能な麻雀大会にさっそく申し込みしていた。相棒のアンはまだ年齢的に参加できないし財前姉妹やミサトはプロ予選からの参加なのでアマチュアのユウと同じようには参加出来ない。プロはプロだけで別日に予選が行われて勝ち上がらなければならないのだ。なのでユウは麻雀部ではひとりきりの予選参加となった。(予選会場は上野かあ。遠いけど乗り換えはないから行きやすくて良かったあ) こうしてユウはひとり、夢への第一歩を踏み出すのであった。◆◇◆◇ 泉(いずみ)テンマは納得できなかった。 ここはフリー麻雀『牌スコア』 前日に成績が良くないスタッフを守れというミーティングをしたその舌の根も乾かぬうちに3卓6入りの指示を出すオーナーにテンマは辟易していた。3卓6入りとは。卓が3つ稼働していて、そこにスタッフが6人入って卓を回しているということ、つまりは2卓2入りで充分なのである。 なぜオーナーがそんな事をするかと言うとスタッフからもゲーム代は巻き上げるシステムだからだ。 店の人間であれゲームに参加してればゲーム代は払ってもらうというのがこの業界の常だった。しかし、だからと言って3卓6入りのようなあまりに露骨なことはしないのもまた経営陣の掟である。まして、前日のミーティングで負けてしまうスタッフを守りましょうとか言ったなら尚更だ。 テンマは決して負けていなかったが、このオーナーの汚いやり口が気に入らない。ミーティングごっこもうんざりだ。こんな所で働いてたら自分もオーナーの食い物にされるだけだと思っていた。 そんな中、それでも歯を食いしばって働いたが、ある日オーナーが自分の身内を3人連れてきて4卓8入りに伸ばした。いま、2卓丸で平和に回してる

    Last Updated : 2025-04-11
  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜

    【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜 ――人はごく稀に神化するという。 ある仮説によれば全ての神々には元の姿があり、なんらかのきっかけで神へと姿を変えることがあるとか。 そして神は様々な所に現れる。それは麻雀界とて例外ではない。 この話は、麻雀の神とそれに深く関わった少女あるいは少年たちの熱い青春の物語。その大全である。 ◆◇◆◇もくじ➖️メインストーリー➖️第1部 麻雀少女激闘戦記一章 財前姉妹二章 闇メン三章 護りのミサト!四章 スノウドロップ第2部 麻雀烈士英雄伝一章 ジンギ!二章 あなた好みに切ってください三章 コバヤシ君の日報四章 カラスたちの戯れ➖️サイドストーリー➖️1.西団地のヒロイン2.厳重注意!3.約束4.愛さん5.相合傘6.猫7.木嶋秀樹の自慢話➖️テーマソング➖️戦場の足跡➖️エンディングテーマ➖️結果ロンhappy end➖️表紙イラスト➖️しろねこ。◆◇◆◇はじめまして、彼方です! 麻雀の楽しさを1人でも多くの人に伝えたくてこの物語を書いています。良いと思いましたらぜひ拡散の方をよろしくお願いします!この小説の読み方は──── ──これは時間の経過です。2つなら少しの、3つなら大きな時間の経過になります。── ────これは時間の遡りです。────これはちょっとした区切りです。◆◇◆◇これは視点変更か大きな区切りです。 これを意識していれば視点混乱などしないで読めると思います。それでは、彼方流麻雀小説の世界をお楽しみ下さい――

    Last Updated : 2025-02-28

Latest chapter

  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その5 第六話 泉天馬の1人旅

    53.第六話 泉天馬の1人旅 その頃、佐藤ユウはアマチュアの参加可能な麻雀大会にさっそく申し込みしていた。相棒のアンはまだ年齢的に参加できないし財前姉妹やミサトはプロ予選からの参加なのでアマチュアのユウと同じようには参加出来ない。プロはプロだけで別日に予選が行われて勝ち上がらなければならないのだ。なのでユウは麻雀部ではひとりきりの予選参加となった。(予選会場は上野かあ。遠いけど乗り換えはないから行きやすくて良かったあ) こうしてユウはひとり、夢への第一歩を踏み出すのであった。◆◇◆◇ 泉(いずみ)テンマは納得できなかった。 ここはフリー麻雀『牌スコア』 前日に成績が良くないスタッフを守れというミーティングをしたその舌の根も乾かぬうちに3卓6入りの指示を出すオーナーにテンマは辟易していた。3卓6入りとは。卓が3つ稼働していて、そこにスタッフが6人入って卓を回しているということ、つまりは2卓2入りで充分なのである。 なぜオーナーがそんな事をするかと言うとスタッフからもゲーム代は巻き上げるシステムだからだ。 店の人間であれゲームに参加してればゲーム代は払ってもらうというのがこの業界の常だった。しかし、だからと言って3卓6入りのようなあまりに露骨なことはしないのもまた経営陣の掟である。まして、前日のミーティングで負けてしまうスタッフを守りましょうとか言ったなら尚更だ。 テンマは決して負けていなかったが、このオーナーの汚いやり口が気に入らない。ミーティングごっこもうんざりだ。こんな所で働いてたら自分もオーナーの食い物にされるだけだと思っていた。 そんな中、それでも歯を食いしばって働いたが、ある日オーナーが自分の身内を3人連れてきて4卓8入りに伸ばした。いま、2卓丸で平和に回してる

  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その5 第伍話 オリジナル戦術書

    52.第伍話 オリジナル戦術書 その日、バイトから帰ってきたカオリは家に誰もいないことを確認するとキーホルダーをツンとつついた。「ねえwoman」《なんですか?》「マナミが伸び悩んでる感じがするんだけど、何かアドバイスできないかな」《ラシャの付喪神様は無言みたいですからね。ちょっと間違ってるとお知らせしてくれるだけで基本的にはマナミさん自身に任せてますよね》「何か効果的な練習メニューとかないの?」《そうですね、私なら……》「私なら?」《自分オリジナルの戦術書を作ります》「自分で?! そんなこと出来ないよ!! 未熟も未熟。私たちはまだ素人みたいなもんなのに!」《何言ってるんですかカオリ。あなたもマナミさんも今はもう競技団体に所属している、まごうことなきプロ雀士なんですよ。忘れたんですか?》「そ、それはそうだけどぉー」《やってみればカオリには出来るはずです。カオリは文章を書くのは得意じゃないですか。マナミさんにも書き方のコツを教えながら2人で作ってみたらいいんです。やり始めればきっと楽しいですよ。日記だってカオリは楽しそうによく書いてるじゃないですか》「例えばどんなことから書いたらいいかな」《そ……(あ、消えた) カオリは再びキーホルダーをツンとつつく。「で、例えばどんなことから書いたらいい?」《そう言うのはまず自分で考えるから意味があるんですよ、カオリ。でも、強いて言うならまずは基礎からじゃないですか? 私ならスタートは基礎から。確実で、それでいて出来ていない人もたくさん居そうな。そんな自分の中で一番気をつけてる『構え』から入るかもしれませんね》(ふむ、なるほど)「ありがとう、woman。マナミと一緒にちょっと考えてみる!」《これでマナミさんが一皮剥けるといいです

  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その5 第四話 人間読み

    51.第四話 人間読み その半荘は萬屋マサルのダントツだった。誰にも捲られることはないだろうという点差をつけてオーラスを迎えたマサル。そこに3着目につけている久本カズオがどう見ても2着すら捲らない安仕掛けで逃げを決めに来てた。 打点はおそらく2000点。あっても3900。満貫を狙えば2着を捲れるが、ラス目が千点差以内のすぐ近くにいるのでリーチ棒を出さない方針として考えた結果『ラス落ち回避のみを優先』とさせて安仕掛けで3着キープ狙いとなったのだ。 その時のカズオは(安いのは分かるように二色晒したからこれなら萬屋が放銃してくるな)とほくそ笑んでいた。 それを見たマサルはむしろカズオを徹底マークした。絶対にあがらせない。そう誓った。そして、長引いた末にラス目が追いついた。「リーチ!」 そこに対してマサルはカズオに現物の打⑦。「ロン!」 見事なメンタンピンだった。これをツモって裏乗せれば2着という仕上げ。「3900」「はい」「……2卓ラストです。優勝C席会社失礼しました。着順CDAです!」「2卓の皆様よりゲーム代いただきましたありがとうございます!」「「ありがとうございます!」」「それではゲームお待ちの2名様お待たせ致しました」 待ち席で待っていた人を卓にご案内して立番に戻るとカズオがマサルに質問してきた。「さっきのオーラス。僕の当たり牌持ってなかったんですか? 差し込みしてくると踏んだんですけど」「持ってたさ。いつでも差せた。4種類以上持ってたからどれかは当たりだっただろうな」「え? じゃ、じゃあなんで打ってくんないんですか」「態度が悪いからだ」「ええ?」「久本さんの考えていることはお見通しなんだよ。安い

  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その5 第三話 知っているから分からない

    50.第三話 知っているから分からない マナミは力を付けてきたので最近はずっとラシャの付喪神の出番はなかった。もう、現段階のステージでは見てなくても大丈夫だなと。 すっかり出番を失った付喪神だが、それこそが望んだことなので神様も満足して休んでいた。もう、マナミは現状放っておいても強い。とは言えまだ経験不足。分からないことはたくさんある。 マナミは分かる範囲で間違えないというだけだ。成長したらそれと共にまた分からない事は増えていく。 麻雀は知れば知るほど正解が難解に思えてくる。それは麻雀を知れば新しい解法を知ることにもなるから。 今まで足し算引き算しか知らなかった人にかけ算を教えるようなものだ。新しい解き方に気付くことこそが成長で、それを使いこなす為に更なる鍛錬が必要となる。  つまり、誰よりも知っているから分からない。そういう現象が麻雀にはある。 早くて、正解であっても、浅いのであれば最強とは程遠いということ。最高等級な正解を探求し、相手の力量も把握し、その中から今使うべき選択、ターゲットに対して最も効果的と思われる最適打を導き出せて初めて一流雀士への道のスタート地点に立てるというものだ。 とは言え、マナミはずいぶんと強くなった。なのにマナミはスコアをもっと伸ばしたいと常に思っていた。それは自分より上のスコアを反対番のカオリが出すから。(負けられない! 姉として、ライバルとして、そして…… プロとして! ……カオリにだけは負けたくないっ!!) そんな思いを抱いていた。 そうとは知らずカオリはwomanに習いながら勝ち続けていたのだが。◆◇◆◇ 一方、ミサトは麻雀部にプロ麻雀師団入りしたことを報告に来ていた。「というわけでー、私は麻雀部の誓いでもある『生涯雀士』の

  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その5 第二話 財前プロの初出勤

    49.第二話 財前プロの初出勤 土曜日。今日はカオリが午前出勤の日である。そして、プロ雀士になってから初の出勤日でもあった。「「カオリちゃん! プロ試験合格おめでとう!!」」 出勤したらみんなから祝福された。時給も980円から1200円になるんだという。「ありがとうございます。でも、なんだかまだ実感がないです。リーグ戦も始まってないし。私がプロ雀士かあ…… ウソみたい」「カオリちゃんはプロだよ。なんかそう、オーラを感じるもの」「あは、ありがとうございます」(それはwomanのことかな? 勘のいい人にはわかるのかしら)「じゃあさっそくだけどカオリさん本走頼めるかな」「もちろんです!」「ああ、今日からは財前プロか」「やめてくださいよ店長。今まで通りカオリでいいですよ。それに財前プロだとマナミもだし」「わかったよ。それじゃ1卓で立卓準備してください」 そう言うと店長はゲームシートに時間と名前を記入し始めた。 場決めの牌を引いてゲーム開始!『ゲーム、スタート』 自動卓がゲーム開始の音声を上げる。「「よろしくお願いします!」」 カオリは北家でスタート。「お飲み物はよろしいですかー。みなさんお飲み物のご注文はよろしいですかー」そう聞きながら立番の店長が卓を回る。「あ、ごめん、ケータイの充電お願い」大体この時飲み物以外の注文が入ったりする。今来たばかりの人に食べ物の注文をされる時もある。外で食べてから来ればいいのに。その方が安く済むのにな。といつも思う。タバコの注文をされる時もあるが(それは買ってから来店してよね)と思う。そもそも私は買いに出れないし。年

  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その5 第一話 3つの上達方法

    48.ここまでのあらすじ カオリ、マナミ、ミサトの3名はプロ麻雀師団のテストを受けて見事合格。今期から入会し、プロ雀士として活動することになる。 一方ユウは競技プロという道ではなく麻雀教室講師という道を目指した。【登場人物紹介】財前香織ざいぜんかおり通称カオリ主人公。読書家で書くのも好き。クールな雰囲気とは裏腹に内面は熱く燃える。柔軟な思考を持ち不思議なことにも動じない器の大きな少女。神の力を宿す運命の子。財前真実ざいぜんまなみ通称マナミ主人公の義理の姉。麻雀部部長。攻撃主体の麻雀をする感覚派。ラーメンが大好き。佐藤優さとうゆう通称ユウ兄の影響で麻雀にハマったお兄ちゃんっ子。竹田杏奈たけだあんな通称アンテーブルゲーム研究部に所属している香織の学校の後輩。佐藤卓さとうすぐる通称スグル佐藤優の兄。『ひよこ』という場末雀荘のメンバーをしていた。自分の部屋は麻雀部に乗っ取られているが全く気にしていない。井川美沙都いがわみさと通称ミサト麻雀部いちのスタミナを誇る守備派雀士。怠けることを嫌い、ストイックに生きる。中條八千代なかじょうやちよ通称ヤチヨテーブルゲーム研究部所属の穏やかな少女。理解力が高く定石を打つならコレという判断を間違えない。三尾谷寛子みおたにひろこ通称ヒロコテーブルゲーム研究部所属の戦略家。ゲームの本質を見抜く力に長けていて作戦勝ちを狙う軍師。倉住祥子くらずみしょうこ通称ショウコ竹田アンナの同級生。ややポッチャリ気味の美少女。見た目通り、よく食べる。学力は高く常に学年上位だがそんなことには全く興味がない。天才肌。浅野間聡子あさのまさとこ通称サトコショウコの親友。背が高くてガッチリした体格。中学時代はバレー部で活躍したが高校からは料理研究部に興味を持ち運動部はやめることに。運動神経よりも戦略や読みで活躍する頭脳明晰な元セッター。womanカオリにだけ届く伍萬の付喪神の声。いつも出現するわけではなく、伍に触れた時だけ現れては助言をしてカオリを勝利へ導こうとする。その5第一話 3つの上達方法 佐藤ユウはメキメキと腕を上げていた。最近、倉住ショウコと浅野間サトコがユウのような戦術家になりたいと言い毎日のように教わりに来るのでコイツら受験生なのに学校の勉強は大丈夫

  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その4 第十二話 私のなりたいプロ

    47.第十二話 私のなりたいプロ 白山詩織(はくざんしおり)は帰りたかった。(はあーー。なんで私がこんな仕事をしなきゃなんないのかしら。試験官なんて私の時はもっと重鎮が出てきてやってたじゃない。なんで私に招集がかかるのよ! でも、これをやれば他の行事を今年はパスしてもいいって言われちゃあやるしかないか…… パーティに出て女王位おめでとうとか壇上で言われたりすんのは面倒くさいし、今年のパーティは休ませてもらうわ) そう思ってシオリは今回のプロテストで試験官を務めた。名簿に目を通してみると財前という名前が2人いることに気付く。(姉妹かしら、珍しいわね) 試験会場の椅子や長テーブルの設置を手伝ったりして朝早くから忙しいシオリ。(ったく、何で私が) そう思いつつも女王シオリは汗をかきながら自分の仕事をしっかりやった。────10時00分 試験受付が始まった。今度は入り口で記入をお願いする係をシオリが担当。もう疲れたから座ってられる仕事をしようと思ったのだ。そこに一番手で受付に来たのは派手な髪色をした、それでいてライオンのような堂々たる佇まいを見せる立ち姿の美しい美少女だった。(おお…… 美しさの中に知性と力を感じさせる。強者の雰囲気があるな。この子は合格しそうだ)とシオリは一目で思った。「はい、こちらにお名前を記入して右手奥から階段を上がり2階の手前左の部屋へ行って下さい」「はい」井川美沙都 それから数分後また別の美少女がきた、しかも今度は2人だ。「はい、こちらにお名前を記入して右手奥から階段を上がり2階の手前左の部屋へ行って下さい」「はい」「はい」財前真実財前香織(

  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その4 第十一話 イチゴサンド

    46.第十一話 イチゴサンド 金色に近い茶髪をした少女は車窓から見えるのどかな風景を立ちながら見ていた。(落ち着くわ…… どこまでも緑。時々花が咲いていて。少し前まで東京でコンクリートばかり見て暮らしてきたのが嘘のよう。やっぱり人間は自然の中が落ち着くようになっているのかしら。人間である前に動物ってことね) そんなことを思いながら大洗鹿島線(おおあらいかしません)で鹿島神宮(かしまじんぐう)へと向かっていたのは来週プロテストを受ける井川ミサトだ。 鹿島神宮は勝負の神様。麻雀プロテストの合格祈願にはもってこいなのである。 車内はガラガラに空いていて座席は選び放題だったが例によってこの少女は座らない。常に肉体を鍛えている。鍛えてはいるのだが、食べ物は好きな物を食べたい。そこは譲りたくないので、せめて運動量は多くしていく。ミサトはそういう考えだった。 美味しいものを食べることすら我慢して鍛えるのは違うような気がするのである。そこは食べようよと。なので当然、今回も鹿島神宮で祈願を済ませた後はアリスラーメンに行くつもりだ。けど、今回の目的はラーメンではなくフルーツサンドだ。 正直言って迷った。ラーメンを食べるべきかどうか。両方ともというのは大人の考えで、まだ学生のミサトにはラーメンもフルーツサンドもというのは贅沢過ぎた。 前回は店内でみんな一緒にラーメンという計画だったので選択肢に無かったが今回は一人旅だ。無人販売所のフルーツサンド…… 食べてみたい! しかし、ラーメン美味しかったし…… でも、イチゴサンド食べたいし……。決定出来ないまま長考中のミサトだったが到着したら選択の余地がなかった。なぜなら現在時刻14時55分。昼営業のラストオーダーは14時45分までなのである。さすがに夜営業の17時までは待っていられない。無人販売所なら24時間あいている。(よし、運命がイチゴサンドを

  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その4 第十話 スグルの新人教育

    45.第十話 スグルの新人教育 スグルの働く鶯谷(うぐいすだに)の雀荘『富士』に新人(と言っても48歳。雀荘経験はあるが過去に2度迷惑かける形で辞めている)が入った。 新人の名は久本一夫(ひさもとかずお)。彼はそれなりに仕事をやった。まるっきりダメというわけでもない。だが、50分に出勤する奴だった。 別にそれ自体は責めることではない。従業員規定には55分には着替えて挨拶を終えた状態にするようにとあるのでギリギリ間に合っている。 ……が、問題は反対番との交代の時に起きた。 新人のカズオはその日21時30分スタートの卓に着いていた。そこに、遅番のスグルが出勤する。「おはようございます!」 するとカズオはこれはしめたとばかりに「ここ行けますよ!」と交代を主張してくる。東1局一本場21000点持ちの北家だった。つまり既に4000オールを引かれている。 優しいスグルはそこを交代するが、それを直後に出勤して状況を把握したマサルがカズオを呼び出す。「久本さんはなんでここスグルに打たせてんだ。しかも失点しておいて。スグルの方から交代すると言ったのか?」「えっと、違います……」「久本さんのいつもの出勤時間は50分なんだから30分スタートのゲームは交代してもらう訳にいかねえとは思わないのか?」「……え」「え、じゃねえ。いいか、この恩をスグルに返すまでは必ず30分に出勤してきなさい。今後50分に出勤とかさせねえからな。したら遅刻として扱う。当然ですよね」「そんな」「あなたはそうやって自分にだけやたら甘くしてきたから集団で不和をもたらして職場を転々としてきたんだよ。全て久本さん自身の責任だ。あまちゃんなんだよ。おれをあんまり怒らせるなよ。いいか、自分はもう歳だから生き方は変われないとかは絶対に言うな! おれはあなたのために今言うぞ。人生はまだ続くしあなたはずっとあなた

Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status